しずおかDX

活動報告

2022年5月勉強会「製造業のDX事例を学ぶ」を開催しました(ゲスト:株式会社プラポート代表取締役 宮季高正様)

2022年5月19日16:00より、勉強会「製造業のDX事例を学ぶ」を静岡市内の会場およびオンラインにて開催しました。

進行:静岡鉄道株式会社(以下、静岡鉄道)
講師:株式会社レッドジャーニー(以下、レッドジャーニー) 市谷聡啓様
ゲストスピーカー:株式会社プラポート、株式会社REVOX 代表取締役 宮季高正様

【内容】

  1. 講演:製造業が挑むデジタル・トランスフォーメーション
    ~2D図面AI自動見積『セルボット』の開発の道のりと今後~
  2. 講師コメント
  3. Q&A
  4. ワークショップ
    個人ワーク、グループディスカッション、全体共有
  5. 講師総評

【講演】製造業が挑むデジタル・トランスフォーメーション
~2D図面AI自動見積『セルボット』の開発の道のりと今後~

話し手

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宮季 高正 様
株式会社プラポート 代表取締役社長
プラスチック精密機械加工、開発製品の試作モデル設計製作等を行う株式会社プラポートの代表取締役社長。入社時30名程だった会社規模をプラスチックの材料販売サイト「カットプラドットコム」にて100名以上の会社に成長させる。社内のAIプロジェクトは自らが主導し、見積作業のAI活用に取り組む。この先やってみたいことは「日本の中小製造業をホワイトな会社に塗り替え、日本全体に活気と生産性を高める貢献をしたい!」

株式会社プラポート
https://www.plaport.co.jp/

セルボットがもたらしたこと

プラポートでは、主に産業機械部品のプラスチック部品を受注生産で少量1個から販売しています。従業員数は90名弱、私は2年前に事業承継をしました。見積りと納期の速さが最大の強みで良品率は99.95%。速さと正確さを両立させています。

セルボットは、世界初のEDI(Electronic Data Interchange)を搭載した2D図面AI自動見積りです。2D図面の見積作成を誰でも簡単にできるようにしたもので、自社で必要としていたものを製品化しました。セルボット導入後、見積りコストは4分の1程度に縮小、バラツキもなくなり、10分程度で見積回答ができるようになりました。時間が短縮された分、営業活動等のコアな業務に時間を割けます。

会社の存在意義は、まず雇用

この会社で自分がこれから何をしていきたいのか、という志が非常に重要だと考えています。志の追求こそが企業の存在意義となり、社員や社会への貢献となります。私は、リーマンショックで売上が半減していた中、サラリーマンを辞め東京から後継者としてやってきました。中小企業の製造業では自社でオリジナルの商品を作っているところはほとんどなく、基本的にお客様からいただいた図面通りに製品を作っています。そういうビジネスモデルでは、自社でなくてはならない理由がありません。

会社の使命や存在意義について考え気付いたのは、まず雇用だということです。事業継承後、「生きがいと感動の創造」を経営理念としました。突き抜ける感動の付加価値追及でやりがいを生み、そこから高収益を得て社員に還元する。どこでも作れるものを作っているからこそ、それが会社の使命であり存在意義だと考えました。

変革の戦略

「感動のスピードを作ろう」を目標に決め、土日も稼働し金曜の注文を月曜に納品できるようにしました。そうすれば必ず高く売れますし、特にスピードを重視されるお客様には刺さるはずです。社員の反応は「絶対無理」というものでしたが、全方位を目指すのではなくスピードの一点に特化しようと戦略を練り、必要なテクノロジーを準備していきました。

まず、工場の機械の配置と利益率に注目し、機械加工に集中できるよう配置を変えて機械を増設し加工量を増やしました。最も利益率が高いところを集中して伸ばしたことで結果が出ています。集中させることの良さは他にもあります。教育が簡素化されて職人技に頼らなくなり、いろんな機械を扱える多能工化が進みます。今までは縦割り構造でしたが、多能工化を評価することでシフト制にも対応でき、やりがいにもつながっています。

生産管理も非常に重要です。1万種類を自動で割り当てできるソフトやQRコードを使った在庫管理を導入し、機械の稼働率はすべてグラフで視覚化しました。プログラムのAI化を2ヶ月ほど前に導入し、全体の10%はAIが作成しています。目標は7割のAI化です。事務作業が非常に多いため、2〜3年前からRPA化し全体の半分ほどは自動入力ができるようになっています。

人のリソースはテクノロジー以上に大切です。シフト制を導入し土日も稼働する代わりに有給取得率100%を目指し、2021年度は92%でした。一人当たりの利益はそれでも増加しています。人事評価システムとしては、管理職コースのほかに技能職コースを設け評価シートも独自で作成しました。シフト制にしたり多能工化したことで、最終的には20%くらいの退職者が出ました。痛みを伴いましたが理念の共感者が残ったことで新しい取り組みを進めることができ、ホワイト企業認定を受けることができました。さらにSNSで共感してくれた方が新卒採用やインターンシップに来てくれています。

現場で起こっている日々のことについてすぐに対応することが重要です。毎日全員が日報を書いて共有し、Goodボタン等でリアクションしたり、毎朝リーダーが集まって日報で集まった提案や問題点について審議しカイゼンしたりしています。

開発の背景

日本の1時間あたりの労働生産性と平均賃金はOECD加盟国の中でも非常に低くなっています。無駄が多く儲からないケースが日本の中小製造業でよく見られます。

今や大手のDX先進部品メーカーが中小部品メーカーのシェアを奪っています。DXが進んだ先進的な商社ではAIが見積依頼に自動で対応しています。中小の部品メーカーは主体性もシェアも奪われ淘汰されていきます。変化と進化が必要です。

見積りにAIを活用できないかと考えていたところ静岡産業財団からお声がけいただき、経産省主催のAI人材育成イベント「AI Quest」に参加しました。当初は自分たちの雇用を変えるべくセルボットを開発しましたが、間接的にお客様の雇用も変えられるのではと感じ、REVOXという会社を立ち上げました。

セルボットを導入すると素早く見積りができ、EDIですぐに回答するため電話連絡の必要もなくなります。経営者や管理者が見積りを管理し、すぐにお客様に対応できるため、お客様の体験価値が上がり高く売ることができ受注率も上がります。セルボットを導入することで自然にDXが実現できることを目指しています。

開発への道のり

事業化するには事業計画・パーパスを作成する必要があります。SONYが無料で提供するStartDashというサービスを利用して100枚近い事業計画書を作成し、実績がないにも関わらず銀行から資金調達をすることができました。

ターゲットは金属部品メーカーの70代の経営者と、その後継者となる40代の経営層です。彼らには親しみやすさや分かりやすさが必要と考え、イメージ動画を作りました。動画に出演する俳優のキャスティングにはクラウドキャスティングを使いました。

REVOXではリモートワークを基本とし、月1〜2回ほどこれからのあるべき姿を語り合うようにしています。開発人材はAI Questとプラポートのメンバーです。Google Workspaceを使って働き方を整え、リモートでのコアな会議にはオンラインホワイトボードツールmiroを活用しています。優秀な人材の採用にはWantedlyをおすすめします。給与や福利厚生等の条件ではなく、仕事の内容やスキルに特化したマッチングができるジョブ型雇用の求人サイトです。

DXの取り組みから学んだこと

最も重要なのは、事業計画(存在意義・パーパス)を一回決めたら終わりではなく、進化させつつ徹底してメンバーに浸透させることです。リーダーとして発信し続けていくことが重要だと思っています。DX、AI、IoTはあくまでも手段です。

松下幸之助さんの講演会でのエピソードがあります。「今は余裕がないから具体的な方法を教えてほしい」と言う参加者に対して、松下さんは「方法は分からなくても、まずは”思う”ことが大事ではないか」と答えられたそうです。思わなければ絶対に成し遂げられませんが、思えば実現に向かうことができます。思うか思わないかの差は非常に大きいのです。

私自身の人生をふりかえってみても、「まずは思うこと」の大切さを実感します。ここまでの道程も、まずは思っていたからこそチャンスを掴めたのではないかと思っています。もちろん一人で成し遂げたわけではありません。関わってくださった皆さんに感謝しています。

講師コメント

DXでは新規事業を生み出すだけではなく組織を変えていくことが合わせて必要です。プラポートでは、組織を変えていくために7つの方針を掲げ具体的に変えていくと同時に、新しい事業も生み出しています。事業作りに関しても、社内の業務を見直すことで生まれたサービスを外部の他社に向けて提供していこうとしています。これらの点は非常に参考になるのではないでしょうか。

Q&A

Q1.幹部層から現場のメンバーまで同じベクトルに持っていくのは非常に難しいと感じています。浸透させるためにまず第一歩として何をされたのか、差し支えなければ教えていただけますか。

私たちも浸透できずに遠回りをした時期がありました。東京など離れた地域で他の仕事と兼業で働くメンバーとは、月に2回ほど、これからのあるべき姿や夢などを経営者や幹部と直接会話する機会を設けました。

Q2.AIについて最初は精度が低い印象がありますが、初期フェイズではどう対処されたのでしょうか?

精度については完全に割り切りです。そもそも人の対応も決して完璧ではありません。まずは最悪でも赤字にならないラインで、70〜80%くらいのゾーンをある程度叩き出せればいいと割り切って始めました。そこからどんどん自動学習していきます。

【その他】メリハリのある時間の使い方、外部メンバーとの仕事の進め方のポイント、社内の雰囲気やメンバーの変化、日報がもたらしたこと、思いを具現化するツールの取り入れ方等についても伺いました。

ワークショップ

ワークシートに基づいて個人ワークを行ったあと、グループディスカッション、全体共有を行いました。

講師総評

自分たちがどのような存在意義を持ってやっていくのか。ワークでも話題にあがっていましたが、そういうことを話す時間をとるのは確かに難しい面もあると思います。ただ、時間がないことを言い訳にして「思う」ということをしなければ、本当に何も進まなくなってしまいます。これが今日の一つの学びではなかったかと思います。

また、いろんなサービスや外部の人材を積極的に活用されていることも印象的でした。簡単にアクセスできて早く仕事を完結させる手段を上手に選んでいるなと感じました。工夫して作りだした時間を使って大事な話をするというお話は非常に参考になると思います。敢えて時間を設け、「自分たちの志はどこにあるのか」といった会話をすることは、DXを進める大きな推進力になるのではないでしょうか。

次回以降のイベント開催予定

勉強会の開催予定については、こちらのページをご覧ください。

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